スマホのバッテリー長寿命化は目前か? 電池の“謎”を解明した米大学の研究がすごい

「あれ、スマホの充電、もうこんなに減ってる…」。

多くの人が日常的に経験する、この悩ましい問題。

実は今、このバッテリーの寿命を劇的に延ばす可能性を秘めた、画期的な研究が進んでいることをご存知でしょうか。

私たちの生活に欠かせないスマートフォンやノートパソコン、そして普及が進む電気自動車(EV)。

これらの心臓部とも言えるのが「リチウムイオン電池」です。

しかし、便利さの一方で、使えば使うほど性能が落ちてしまう「劣化」という課題が常に付きまといます。

そんな中、米テキサス大学ダラス校の研究チームが、長年の謎だったリチウムイオン電池の劣化メカニズムを解明し、その寿命を延ばすための新たな道を切り開きました。

今回は、この驚きの研究内容を紐解きながら、知っているようで知らないリチウムイオン電池の雑学や未来について、深掘りしていきましょう。

電池の中で起きていた“サビ”の正体

研究チームが注目したのは、リチウムイオン電池の主要な材料の一つである「リチウムニッケル酸化物(LiNiO₂)」です。

この材料は、電池の性能を高める上で非常に重要ですが、同時に劣化しやすいという弱点も抱えていました。

研究チームは、原子レベルで電池の内部を観察し、充放電を繰り返すうちに、電池のプラス極(正極)から酸素原子が放出され、構造が不安定になってしまう現象を発見しました。

これが、電池の性能を低下させる「サビ」のようなものだったのです。

例えるなら、何度も使っているうちに骨組みがもろくなり、ひび割れが起きてしまうような状態です。

そして、この“犯人”である酸素の放出を抑えるため、研究チームは正極の構造を原子レベルで強化するというアプローチを考案。

現在、この新しい技術をテストしており、実用化に向けて大きな一歩を踏み出しています。

この技術が確立されれば、私たちの持つデバイスのバッテリーが、今よりもずっと長く、安定して使えるようになるかもしれません。(出典: SciTechDaily

あなたもやってる?電池の寿命を縮めるNG行動

今回の研究は未来の技術ですが、今すぐ私たちができることもあります。

実は、普段の何気ない行動が、電池の寿命を縮めている可能性があるのです。

リチウムイオン電池は、正極と負極の間をリチウムイオンが行き来することで電気を蓄えたり、使ったりしています。

しかし、このイオンの旅路はとてもデリケート。

特に、以下の3つの状況は電池にとって大きなストレスとなります。

  • 過充電・過放電: 100%になっても充電し続けたり、0%のまま放置したりすること。満充電や空っぽの状態は、電池の内部に大きな負担をかけ、劣化を早めてしまいます。(出典: 株式会社AGUS
  • 高温環境: 真夏の車内や直射日光の当たる場所など、高温状態は化学反応を活発にしすぎてしまい、電池の劣化を加速させます。(出典: GENTOS
  • 充電しながらの使用: 充電と放電が同時に行われると、電池内部の温度が上昇しやすく、これもまた劣化の原因となります。

少し意識して、充電が終わったらケーブルを抜く、高温の場所に放置しない、といったことを心掛けるだけで、大切なデバイスをより長く使い続けることができます。

ノーベル賞受賞!リチウムイオン電池の生みの親は日本人

吉野彰氏にノーベル化学賞 : 日本出身のノーベル賞受賞者一覧 | nippon.com

今や世界中で使われているリチウムイオン電池ですが、その基本構造を発明し、2019年にノーベル化学賞を受賞したのが、日本の化学者である吉野彰氏(旭化成名誉フェロー)であることは、意外と知られていないかもしれません。

吉野氏は、それまで二次電池の負極材料として使うのが難しいとされていた炭素材料を用いることで、現在のリチウムイオン電池の原型となる、安全で高性能な二次電池の開発に成功しました。

この発明がなければ、私たちの今の便利な生活はなかったと言っても過過言ではないでしょう。(出典: 旭化成株式会社

未来の電池「全固体電池」が世界を変える?

リチウムイオン電池の進化はまだまだ止まりません。

現在、次世代の電池として最も期待されているのが「全固体電池」です。

従来のリチウムイオン電池が内部に液体(電解液)を使っているのに対し、全固体電池はすべてが固体でできています。

これにより、液漏れの心配がなくなり安全性が飛躍的に向上するほか、より多くのエネルギーを蓄え、充電時間も短縮できると期待されています。

実用化されれば、一度の充電で東京から大阪まで走れるような電気自動車も夢ではないかもしれません。(出典: キーエンス

まとめ

今回ご紹介した米テキサス大学の研究は、リチウムイオン電池の性能をさらに引き出すための重要な一歩。

こうした日々の研究の積み重ねが、私たちの生活をより豊かで持続可能なものへと導いてくれます。

一方で、私たち自身も、今ある技術を正しく理解し、大切に使うことで、その恩恵をより長く享受することができます。

スマートフォンの充電残量を気にする日々から解放される未来は、もうすぐそこまで来ているのかもしれません。

技術の進歩に期待しつつ、まずは手元のデバイスを少しだけ労ってみてはいかがでしょうか。


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